一緒がいいね

 食中毒、一酸化炭素中毒といった言葉がある一方で、仕事中毒、インターネット中毒のような慣用句があるように、中毒には二つの意味があるようだ。一つは薬物や痛んだ食べ物で体の調子が悪くなること。もう一つは、その薬物や痛んだ食べ物に依存してしまって、離れられなくなってしまうことである。

 いま軽く何か間違ったような気がするが、本来の意味はといえばもちろん、中毒というのは「毒に中(あた)る」という言葉なのであって、体の調子が悪くなるほうである。手元の辞書を見るとこちらの意味しか載っていないかったので、ごく普通に使われているような気がする「牛丼中毒」のほうはまだ正式の使われ方としては認められていないらしい。と、牛丼を例に出してはどちらだかわからないか。牛丼を食べ過ぎるほうである。

 まず、これは「アルコール中毒」「麻薬中毒」あたりから混同されてできた意味なのだと考えて、ほぼ間違いないだろう。アルコールや麻薬には害があり、最終的には体を壊してしまうので「毒」なのだが、このどちらにも、その毒を飲むことから逃れがたくする力が備わっているところが恐ろしい。依存症もアルコールの害の一つであり、その毒にあたっているのだ、という解釈なのかもしれないが、「あの人は『アルコール中毒』で亡くなった」と言った場合、肝臓あたりがやられたのか、単に酒を飲みすぎて側溝にでも落ちたのか、よくわからなくてややこしい。

 とはいえ、本来は間違っているからと、依存症のほうの「中毒」の言葉を使うのをやめるとすると、これが簡単ではない。「オレ、トンカツ好きなんだよ、トンカツ中毒なんだよ」と言うと夕飯時の愉快な家庭の風景なのだが、「オレ、トンカツ依存症なんだよ」というとそれは病気になってしまうのだ。ああ依存症。油でアブラでたまらない。

 ほかにも、「活字中毒」という言葉が、暇になると本を読んでいる、本ばかり読んでいる、という状態を指して使われるが、こちらも「活字依存症」と言い換えると、なんだか深刻な病理がひそんでいるような気がしてくる。私も、一人でご飯を食べたり、音楽を聴いていると、つい何か読むものを探してしまうタチなのだが、べつだん面白くもないのに今食べているものの袋の裏などを読んでいると、確かに、酒ならミリンを飲む、タバコなら吸い殻をもう一回吸う行為に似た、一種の病気であると思う。

 そういう人が私以外にもたくさんいるのは確かであるし、害があるわけではないので喜んで「活字依存症」と呼ばれようではないかなのであるが、とまれ、そういった事情でもって、この「食べ物のパッケージ」というもの、同様に提示される他の活字に比べて、よほどよく読まれている文章ではないかと思える。買ってきたソフトウェアのマニュアルや薬の注意書きはちっとも読まないのに、「カップ麺には『リン酸』が入っている」などということをよく知っていたりするのである。

 食べ物で外箱をよく読むものというと、私の場合、二大巨頭は「朝食シリアル(いわゆるコーンフレークのようなもの)」と「ポテトチップス」である。他の食べ物だって箱裏はちゃんと読んでいるのだが、どういうわけか、シリアルもポテトチップスも、一生懸命自分を売り込まねば次にまた食べてはもらえない、という危機感をもった食べ物であるらしく、箱や袋の裏にいかに自分が栄養的味覚的に優れているかということが書いてあって、読みがいがあるのだ。

 そもそもシリアルには大抵「朝食に栄養満点」と書いてあるものだが、私が小学生のころ、ポテトチップスにも確か「牛乳と一緒に食べると栄養のバランスがよくなります」と書いてあった。オヤツにポテトチップスを食べていた私は、そうかなるほどと素直に牛乳を取りだして飲んでいたものだが、今考えてみると、これは牛乳のほうに万能といっていい栄養があるので、ポテトチップスと組み合わせてもバランスが取れてしまうということなのだと思う。ポテトチップスなんぞ、アブラとデンプンでもうタマラン食べ物なのであって、牛乳に付け加えるところはカロリーくらいではないかという気がする。

 そうすると、シリアルのほうも、言ってしまえば偉いところは「牛乳と組み合わせて食べるものである」という点、ただそれだけであるという可能性もある。シリアルの箱によく「一日に必要な栄養素のうち何割が取れます」という表がついているのだが、カッコして「(牛乳との合計)」とあることが多い。それが許されるなら、牛丼でもトンカツでも栄養のバランスがとれていることになるのではないか。

 と、以上のようなことを考えていて、ふと思った。どこのホームページにも大抵ある「リンクページ」というもの、「リンク先のページと合わせてお読みになるといっそうバランスが取れます」ということに違いない。自分のページに足りない部分を補完すべく、他のページを引用する行為であるからである。これはもしや、非常にズルい行為なのではないか。

 などと言いつつ、自分のリンク集を見直してみたら、なんだか活字中毒にうれしい、文章のページばかりになっていて、少なくともバランスが改善されるような気はしなかった。もしや、これが「自家中毒」というものだろうか。


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