ほっとスワップ

 今日は、入れ替えてみよう。

 以前ここで「省略する」という遊びを紹介したことがある。覚えていただいているかどうか、身の回りなんでも「パソコン」「ドラクエ」「トーハン」式に省略してしまおう、してみると面白いぞ、という紹介だったのだが、見事なほどフォロワーが出なかった上に、どうも私自身、その後「略す」界に新たな貢献ができていないように思える。あの文章を書いたのは、いわばマイ「略す」ブームの絶頂期であり、その後急速に熱が冷めてしまったのだということかもしれない。と、こんなものはいつ終わってもいいブームだったのだが、「ワールドカップ略してワルカツ」が大々的に使えるようになる前に力尽きてしまって、そこが少し残念である。

 しかし、人生の本質は出会いと別れであり、精一杯あほうな人生を生きている限り、一つの流行が去った後にはまた次の波がやってくる。私が今回紹介したいのは「入れ替える」という遊びである。これに「駄洒落」「山号寺号」のような正式名称があるのかどうか、「略す」に続きまたしても良く知らないので、今は不細工ながらこのまま「入れ替える」と呼ぶことにするが、今回はこの「入れ替える」について書きたいのである。とにかく例を見て欲しい。こうだ。

「ナクドマルド」

 大阪ではナクドと言う。何をしているのか、この文章で何を言わんとしているのか、ほぼ言いきったような気がするのでこれでこの旅はいつ終わってもいいものになったのだが、と思いつつやはり続けるのだが、要するに、ぶっちゃけた話、与えられた単語の最初の文字を入れ替えるのだ。たとえば原文「きむらたくや」なら「たむらきくや」と別人になる。略してタムキクだ。

「あろさわくきら」
「しがしまなげお」
「じゅいずみこんいちろう」
「きつもとまよし」
「もくらさもこ」

 いや、待って欲しい。あなたの言いたいことは、分かる。分かるような気がする。あなたは今「それがなんだ」「面白くとも何ともないぞ」と思ったのではないか。これが私の取り越し苦労で、そう思ったのでなければそれはそれでいいのだが、もしそうなら、どうか落ち着いて見ていただきたいのだ。こう、並べて書いていると、その向こうに何か、我々の世界と良く似た、しかし過去の歴史のどこかでタイムトラベラーが蝶を一匹踏み潰してできたような、わずかに異なった世界、「異界」が広がっているのが感じられないだろうか。

「レン・ジョノン」
「マール・ポッカートニー」
「ハージ・ジョリソン」
「スンゴ・リター」

 違う。微妙に違う。見慣れた文字列なのだが、何か違うのである。口に出して言ってみると、元の文字列の選択と、タイミングが(強調するが、タイミングが)正しければ、必ずやこの「入れ替える」の快楽が分かってもらえるはずである。駄洒落もそうだが、退屈な日常に突如として生じる異界への道。私は今回、この「入れ替える」を気軽な異界への案内人として、強くお勧めする。あなたもぜひ身の回りの単語を「入れ替え」て、この気持ちを味わって欲しい。

「レールデンゴトリバー」
「ジャニバーサルスタジオ・ユパン」
「ポリー・ハッターといんじゃのけし」

 始めの、いわば「姓」のところがネタ振りになっていて、後段の「名」のところがオチとして機能している。そこにちょっとした快感があるのではないかと思う。どちらかというと、日本人名、日本語よりも、外国人の名前、外来語のほうが破壊力は増すようである。

「ゴルロス・カーン」
「マール・ぽき」
「アームボーイ・ゲドバンス」

 そういえばソイクロマフトは最近あるゲーム機を発売したが、この名前は「入れ替える」操作に対して耐性がある。つまらないのである。やっぱりツレステプーには勝てないのでないか。

 というわけで、新たな言語遊戯への挑戦「入れ替える」をご紹介したのだが、いかがだっただろうか。今後の皆様の人生(特につまらない授業中とか、単純作業中とか)の糧となれば幸いである。本来ならば、ここで何かしら超ド級に気の利いたネタを一つ披露して気持ちよく去って行きたいところなのだが、思い付かないのでただ去って行くのである。そういえば、どこで終わってもいい旅だったのである。


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