明日から役立つ正しい星占いの書き方

 これから皆様に「正しい星占いの書き方」をお教えするわけですが、はじめに断っておかなければならないのは、「正しい星占い」の「正しい」という言葉にはいろいろな意味が考えられる、ということです。ふつう、最初に考えつくのは「伝統的な」という意味での正しさです。星占いはバビロニアに起源を持つ古い知識体系ですが、その、伝えられてきた占星術の知識や技術に対して正直に、その主張するところを誤りなく伝える、という「正しさ」がまずあるでしょう。

 しかし私が今回お伝えするのはそれではありません。そもそも、古く伝統的な占星術が本当に「正しい」と言えるのでしょうか。言い切ってしまえば、星占いには「もっとも正確に未来を予言できる」という意味での客観的な正誤の基準はありません。その意味で、星占いに限らず、人間の運命を知るとされる占いの技法の「正しさ」はすべて相対的なものであり、あなたが自分勝手にどのようなアレンジを行ったとしても「同程度に正しい」ということはできるのです(非常に口の悪い言い方をすれば、どれも正しさはゼロなので、同程度なのです)。少なくとも、古いものが正しいということはできません。

 余談ですが、この辺りの事情は「正しい日本語」という言葉のそれに似ていると言えます。言葉とは常に変化しつづけるものであり、一般に「伝統的な日本語」イコール「正しい日本語」とされてはいますが、どうしてある時代の言葉が正しくて、新しくできた用法が間違っているのかについては「多くの人がそう思っているから」「その使用例が多いから」という以上の根拠はありません。おそらく、日本語を初めて学ぶ人から見れば「ら抜き言葉」も「平板発音」も伝統的な日本語と対等で、どちらが正しいかはわからないでしょう。占いと言葉の「正しさ」の問題は、客観的で絶対的な評価ができない、という点で共通しています。

 ではここで、もう一つの、私が主張する「正しい星占い」についてご説明差し上げましょう。ここで言う星占いの「正しさ」は、あなたが実際に星占いを活用する場面、たとえば学級新聞や雑誌、テレビ等のマスコミュニケーション上で、あなたの書いた星占いが公共の福祉にいかに寄与するかを基準としています。広く人々に伝える上で、現代社会の尺度に照らしてふさわしいという意味での「正しさ」なのです。このあたりの事情はやはり「正しい日本語」に似ていると言えるでしょう。先ほど述べた意味に加えて、使用する場面にふさわしいという意味で「正しい言葉を使った」というふうに言ったりもするからです。間違った星占いは人々を不幸にしますが、正しい星占いは人々を幸福にします。これは、ある程度客観的な基準であると私は考えます。

 前置きが長くなりました。それでは、その「正しい」星占いを書くにはどうすればよいか。以下、守るべき法則や冒してはならない危険などをお伝えすることにいたします。どうぞよろしくお付き合い下さい。

 最初に守るべきことは雰囲気づくりです。一般的に占い師としてあなたが信用されるためには、舞台作り、服装から始まってさまざまな小細工を行う必要がありますが、雑誌等に発表する場合、星占い欄のデザインは一般にあなたの仕事ではなく、専門のデザイナーが行う場合が多いと思います。この場合は、あなたが雰囲気作りのために決めるべきは、最も重要な本文を除いては「ペンネーム」ということになるでしょう。読者はあなたをペンネームを通じてイメージします。熟考して決めるようにしてください。「チャンコ岸田」「ラッシュ斉藤」の占いを信用しようという気持ちには、普通ならないものです。

 次に、どこかの星座について、今週の運勢をあなたが占うとします。その星座について、なんらかのインスピレーションをあなたが得たとして、得た情報を文章の形で書き下す場合「極端な表現を避ける」ということが重要になってきます。
 これは、占いを信じた人々とあなた自身の身を守るために、非常に大切なことです。ここで、特に注意すべきは前者です。占いを行うあなたは「自分の身を守るほうが大事ではないか」と思うかもしれませんが、前述した通り、あなたは偽名を使って占いを発表するのでしょうし、たとえば星占いを信じて行動することで不利益をこうむっても、通常、責任はその人本人にある、とされますから、やはり重要なのは読者の健康と幸福なのです。職業倫理として、この「極端な表現を避ける」を守ってください。論点をわかりやすくするために、悪い例を書いてみましょう。

悪い例1:今週のあなたは一生に一度あるかないかの超スーパーデラックスラッキーデー。ギャンブルは賭ける馬打つ台大すべて当たりで絶好調、買う宝くじは二本に一本が一億円大当たり。さらに今日話しかけた相手は男女問わず全員あなたにフォーリンラブ、長年の敵があなたにお歳暮を持って謝りにきます。長年の持病もすべて治癒、ウィルスもガン細胞も鎧袖一触全滅間違いなし。今日のあなたの勢いを止められるのは全面核戦争くらいです。さあ、レッツアタック。
悪い例2:あなたは、今日死にます。

 もちろん、熟練した「占い師」であれば、こうした「占い文」を書く場合、
「〜でしょう」
「〜かもしれません」
「〜に気を付けて」
というふうに、断定を避けること、最終的な判断を読者に任せることは、当然の技術です。しかし、そういう表現をした上のことでも、極端な表現は望ましくありません。

悪い例3:あなたは、明日死ぬでしょう。

 やはりいい気はしないものです。読者がふたたびあなたの占い欄を読んでくれるかどうかは「読者の健康と幸福」にかかっていることをお忘れなく。一般には、良いことと悪いことが、だいたい等分になるよう、バランスよく書くのがよいでしょう。

 占い文に付き物なのが「アドバイス」です。アドバイスは、内容によらず、占いの読者のために非常に重要なアイテムです。凶であってもアドバイスに従っていれば安全だという希望を与えますし、吉凶によらず占いが実現しなかったときは、アドバイスを完璧に実行しなかったからだ、と読者を納得させることもできます。アドバイスは、常に前向きに、正しいことなのだけど読者が普段面倒がってしないようなことを中心に薦めてください。あなたの占いに「そのように出ている」からといって、決して、友人をなくすような行為、反社会的な行為、実践すると他人から変に思われるような行為を推奨してはいけません。現代社会では不可能な行為も避けましょう。

良い例1:幸運のおまじないに、机の上に花をかざってみよう。
良い例2:親兄弟に電話をかけると吉。
良い例3:友達や恋人を裏切る行為は禁物。早めのフォローを。
良い例4:ラッキーアイテムは、白い手袋。
良い例5:髪を短くして気分すっきり(※これはぎりぎり「良い例」です)。
悪い例1:幸運のおまじないに、机の上に桜の枝をかざってみよう。
悪い例2:ランダムな電話番号にワン切りしまくると吉。
悪い例3:たまには浮気をしてみましょう。新しい自分が見つかるかも。
悪い例4:ラッキーアイテムは、プラスチック爆弾。
悪い例5:頭蓋骨の穿孔手術をして気分すっきり。

 あなたがいかに書き散らしたものでも、真剣に読んでいる人がいることをお忘れなく。安易なオリジナリティの発揮は禁物です。また些末なことですが、ラッキーカラーやラッキーナンバーにあまり一般的でない色や小数、大きすぎる数を指定するのもやめましょう。読者が覚えていられない占いに価値はありません。ラッキーアイテムは、極端に手に入れにくいものは避けるのはもちろんですが、あまりにありふれたものを指定するのも考えものです。どちらにもかたよらない、バランスを心がけて下さい。

悪い例1:ラッキーナンバーは9743.16。
悪い例2:ラッキーカラーはオリーブドラブ。
悪い例3:ラッキーアイテムは初期型のファミコン(ボタンが四角)。
悪い例4:ラッキーアイテムは空気。

 文章表現のうえで、難しすぎる漢字や、難解な表現は避けたほうがよいでしょう。確かに予言においては一般にあいまいな、どうとでもとれる言い回しが尊ばれていますが、星占いではさらにそれを平易な表現で書くことが求められています。あいまいで、どうとでもとれて、かつ平易である必要があるのです。

悪い例:朔月を追ふ暗海の難路に一閃光明の齎さるや。
良い例:長い間かなわなかった願いがかなっちゃうかも。

「変換」キーの押し過ぎに注意してください。「其々」「所謂」「勿論」など、パソコンさえあれば今日び子供でも書くことができますし、使っても偉く見られるわけではありません。迷った時はカナに開くように心がけてください。ただし「獅子座」「水瓶座」などの星座名は漢字を使ってかまいません。「しし座」よりもよい雰囲気を生みだせることがあります。

 最後になりましたが、くれぐれも占いで短期的な利益を得ようと考えてはいけません。自分の業種、また自分の雑誌等媒体に利益を誘導するようなことを書けば、かならず読者は見抜いてしまいます。また、直接自分に関係ない場合でも、あまり卑近なことを書くと夢のない占い文になってしまいますので、注意しましょう。

悪い例1:今すぐ「月刊Uranus」を三冊買って友達に配ろう。多ければ多いほどラッキー。
悪い例2:とねり銀行成増支店普通口座1106791に千円振り込むと、来世は王女に生まれ変わるかも。
悪い例3:下の「広告バナー」をいますぐクリック。
悪い例4:駅前の「満腹食堂」で「大盛りフライ盛り合わせ定食」が吉(いまなら百円引き)。

 また、自分や恋人の星座によいことばかり書くのもよくありません。これは人情としてそうなりがちですから、一度ぜんぶ書いてしまってから、バランスを考慮して星座名をシャッフルするとよいでしょう。その後に、一二〇度(星座四つ分)離れた星座とは相性がよく、九〇度(星座三つ分)離れた星座とは相性が悪いという、星占いの基本を考慮して適当に調整すれば、どこに出しても恥ずかしくないあなただけの星占いの出来上がりです。

 いかがだったでしょうか。以上をよく守って、楽しい占い師ライフをお楽しみください。きっといい出会いが訪れることでしょう。


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