代打を任されたら

 まず、バットを持って、バッターボックスと呼ばれる範囲に立つこと。バッターボックスは二つあるが、どちらかを選択する。両方にまたがって立ったりしてはいけない。バッターボックスはグラウンド内の地面に書かれた二つの長方形である。捕手(キャッチャー)および主審の近くにある。捕手とは、グラウンドで守備についている相手チームのメンバーのうち、プロテクタおよびキャッチャーマスクと呼ばれる防具を身に付けている唯一の選手である。主審は審判のうち、同様にプロテクタを身に付けている人物である。この二人の姿からわかるように、打者は高速の球を投げつけられる、危険な位置にある。注意を怠らないこと。

 バッターボックスに立ったら、バットを構えて投手(ピッチャー)に向かって立つ。投手はピッチャーマウンドと呼ばれる隆起の上に立っている選手である。ピッチャーマウンドはグラウンド中央捕手よりの位置にある。また彼は、プレイ開始時に球を持っている選手である。

 あなたが代打をコールされたということは、現状の攻撃側チームはあなたのチームで、相手チームは守備側となる。その他の状況は三つのパラメーターによって定義される。
1.走者(ランナー)の状態
2.イニング数
3.アウトカウント
まれに、これに加えて、
4.ボールカウント
が初期化されていない場合があるが、例外的状況である。1を除くこれらの情報は、グラウンド周囲のどこかに置かれたスコアボードに記されている。記されていない場合は、審判に尋ねれば答えてもらえるはずである。やや高度な内容になるが、重要な情報であるので、確認しておくこと。

 主審による「プレイ」の合図のあと、ゲームが再開する。このコールは時として聞きづらい、または身振りによることがあるので注意すること。実際には投手が投球した瞬間に、ゲームは再開する。投手は概略あなたの方向に、より正確にはあなたの近くにある五角形のプレート(ホームベース)の上空に向けて、球を投擲する。この球は、ルールおよび投手の技量によって異なるものの、大抵の場合当たると怪我をする硬度と速度を持っているので、もしもあなたの体に当たりそうになったら、避けなければならない。運悪く当たった場合の報奨制度も設けられているが、怪我に見合うものではない。

 あなたの目的は、この投擲された球を、バットを用いて打ち返し、その間に一塁(ファーストベース)、二塁(セカンドベース)、三塁(サードベース)または本塁(ホームベース)に移動することである。各塁(ベース)は、グラウンド上に置かれた白い布製の四角い突起物であるが、本塁だけは五角形で平たい形をしている。もしもランナーがいれば、彼らは一塁から三塁までのあいだの、どこかの塁の近くにいるはずである。

 打ち返そうとするあなたに対して、投手およびその他の相手チーム選手の目的はそれを妨害すること、つまりあなたに球を打ち返させないことである。投手は、原理的にあなたのバットに届かないところに球を投げることもできるので、制限が設けられている。「ストライクゾーン」と呼ばれるもので、あなたのひざからひじまでの高さを持ち、本塁と同じ幅を持っている。この三次元的な空間の一部を球が通過した(と主審が判断した)場合、この球は「ストライク」と呼ばれる。ストライクの累積数が三回となると、あなたは打者の権利を失い、代打としての仕事が終わる(アウトという)。一方、ストライク以外の場所に投げた場合、これは(非常にややこしい名前ではあるが)「ボール」である。ボールが(3つではなく)4つたまると、あなたは報奨を与えられ(フォアボール)、やはり打者としての仕事は終わる。ただし、ボールになったはずの球であっても、あなたがバットを振ったとみなされた場合、これは「ストライク」としてカウントされる。

 以上から論理的に、あなたはストライクゾーンを通過する球のみ打ち返すよう試みるべきである、という結論が得られる。ただしこれは絶対的なものではなく、ストライクとボールの数(以上をボールカウントという)によって判断しつつ、自由にバットを振る、振らないを決めてよい。ここで、バットを投げたり、振ったバットが捕手等に当たらないよう注意すること。バットを捕手に当てた場合、補償を与えられるのは実は捕手ではなく打者であるあなたなのだが(捕手があなたの行動を妨害したと考えられるからである)、そのような行動を故意に行うべきではない。また、この間バッターボックスから出てはいけない。投手の投球と投球の間に審判にその旨告げれば(「タイム」を取るという)、一時ゲームを停めて、バッターボックスから出ることを含めて自由に行動できるが、この権利もやはり乱用すべきではない。トイレに行くなどはもってのほかである。

 ボールカウントによりアウトないしフォアボールになる前に、あなたの振ったバットが、なんらかのインパクト・パラメータを持って投手の投げた球と衝突した場合(単に「球を打つ」と言う)は、その打ち返した球(打球)の行方によっていくつかの場合が考えられる。まず、いずれかの相手チーム選手が、あなたの打球を、一度も地面に触れることなく捕まえた場合、それはアウトとなる。3ストライクの結果と同じであるが、例外があり、アウトカウントがあなたが打つ前に0か1であり、かつ相手チーム選手の返球よりも早く走者(もしいれば)が次の塁に進むことができた場合、これは「犠牲フライ」と呼ばれる、プラスの意味を持つ打球をあなたが打ったことになる。この制度を「タッチアップ」というが、いずれにしても、代打であるあなたには関係ない。あなたにとってのゲームは終わりである。グラウンドから出ること。

 一方、相手チームの誰もあなたの打球を地面に落ちる前に捕球できなかった場合、その範囲によっていくつかの結末が考えられる。まず、本塁から一塁に向かって直線を引き、一塁方向に無限に延ばした線を考える。同様に、本塁から三塁に向かって引いた線を考えると、グラウンド平面を九〇度に分割した象限が得られる。この中(ピッチャーマウンドをふくむ象限)にあなたの打球が落ちた場合、この打球は「フェア」である。そうでない場合(その他の象限――ファウルグラウンド――に落ちた場合)、これは「ファウル」とされる。ファウルの場合は、あなたは打者としての仕事を続けることができる。ファウルはストライクとして数える。ただし、ストライク数が2の場合はアウトにはならない。つまり、理論的にはファウルを続けることで、投手に何十球と投げさせることもできる(ただしこれは難しく、意味もほとんどないので、狙って試みる価値はない)。

 フェアとなった場合は、相手チームとあなたの競争になる。あなたは球よりも早く、いずれかの塁に到達することを求められる。あなたは、一塁、二塁、三塁、本塁の順に、球が返ってこないかぎり、好きなだけ進むことができる。一般的には、三塁まで進めることはめったになく、本塁となると、なんらかのトラブル(球が地面に空いた穴にはまって取れない等)がないかぎりほとんど見られない。まずは一塁を目指して走ること。一塁は、本塁からピッチャーに向かって右前方にある塁である。逆方向に走ったり、本塁と一塁を結ぶ線からあまり離れて走ってはいけない。塁の間を走ること(走塁という)については(もしいれば)コーチの意見を参考にすることができる。コーチが手を回していれば、走れという合図である。

 あなたが、球が返ってくる前にいずれかの塁に到達すれば、その時のみ、ヒットとなってあなたの勝利である。そうでない場合、すなわち、あなたまたは走者の一人が次の塁に到達するよりも先に、球を持った相手チーム選手の接触を受けた場合(タッチ)、または球を持った選手が目的とする塁を踏んだ場合、あなたの代打としての仕事は不調に終わったという判断を受ける。この場合は、一塁ベースまたは近くのグラウンド上の任意の位置に正座し、ユニホームを脱いで上半身を露出させなければならない。次に、ベルトに固定してある小刀をただちに抜き、一気に腹に突き立てる。おそらく近くにいる相手チーム選手または味方コーチによって介錯が行われるので、それほど長く苦しまずにすむはずである。


トップページへ
▽前を読む][研究内容一覧へ][△次を読む