ぼくのリパッチくん

「何書いてるのん」
「んー」
「何書いてるの」
「いや、ちょっと」
「何いな。気ぃ悪いなあ。見せてえよ」
「わ、なにすんねんな」
「なになに、エコロン」
「わあわわわあ」
「ああ、なるほど。ネーミング募集やんか。応募するの」
「うー。勝手に見んといてえや。そや。このな、シンボルマークの名前に、応募したろちうことや」
「エコロン」
「悪うない。と思うやろ。賞金五万円」
「うーん、確かに悪いことはないけど、『エコロン』かあ。もうどっかで使われてるんと違うかなあ」
「う、それを言われると」
「えーと、なになに『われわれ人類は地球環境にとって異邦人であり、しかしそこに根をおろして生活せざるを得ない存在です』」
「能書きをやな。書いたわけや」
「『自然環境を意味するecologyに、そこに住んでゆくという意味を込めたcolonyを組み合わせて名付けました』。ははあん」
「どう思う」
「ふふ、何でも書けばええというもんと、違うと思うけどなあ」
「あー、あかんか。やっぱり」

「ま、思うんやけどな」
「うん」
「こういう『公募』って、いろいろあるやんか。名前とか、シンボルマークとか、ポスターとか、アイデアとか」
「うんうん」
「やっぱり名前がいちばんいいんと違うかと思うな。公募でいいのが来るのは名前やないかと」
「んー、どういうこと」
「あのな。絵を描く、ちうのは、本当にクリエイトすることやと思うんや。ワシは絵をよう描かんけど、ホンマにセンスちうもんがいる。でもな」
「うん、あんたの描くゾウさん、キバがへんなとこから生えとるねん」
「でもや。名前にはセンスは、極端な話、いらんのや。たくさんある名前から、これがエエちうて選ぶのはセンスかもしれんけど、候補をたくさん挙げるのは、もう人海戦術なんやな。思い付くかどうかで、思い付いたヤツが必ずしも偉いわけやないと思う」
「あんたのドラえもん、なんか目が離れとるねん」
「つまりや」
「うん」
「マークやポスターはプロに頼んだ方がええ。でも、名前はできるだけ広く公募したほうがええというわけや。そこから選ぶのだけプロに任せたら、よろし」
「ははあ」

「まあ、ワシもエコロンはどうかと思うんやけど、気は心言うからな」
「なんでも最後は『気は心』で済まそと思とるやろ」
「ええやないか。当たらんとも限らんぞ」
「そら、ええけど」
「あ、思い出した。昔な、昔」
「ん」
「全理連でな、マスコットキャラクターの名前を募集しとったんや」
「ゼンリレンってなによ」
「全理連は全理連やないかい。知らんのか全理連」
「知らんよぅ」
「全国理容生活衛生同業組合連合会やないか」
「…」
「……」
「いま作ったやろ」
「ぶるぶる、いや作ってへん。作ってへんて。ホンマやて」
「絶対ウソや。なにが生活衛生やのまたウチだまそと思て」
「ホンマや言うてんのに。まあ、要するにアレや。理容店。散髪屋、トコヤさんの組合や」
「で、その、ゼンリレン?がなんやのな」
「信じてへんな。まあええわ。そこが、マスコットキャラクターの名前を。て、今言わんかったっけ」
「初耳や」
「そか。で、それにワシが、応募したというわけや」

「そのキャラクターが、こんなんやけどな」
「…あんたホンマに絵ぇ下手やなあ」
「『リパッチくん』ちうのを考えた。どうや『リパッチくん』」
「それは『理髪店』やから?」
「なんやさっきからワシのことアホにしとんのかお前は。そや。悪いか」
「そうやろと思た」
「それだけやないぞ。repatchでもあるわけや。patchにreや。再起動の再のreにパッチ当てるのpatchや。ツギ当てるいうことや」
「ええけどそれ、つまりどういう意味やの」
「パッチもう一回あてたるど、という意味やないけ」
「何怒っとんのな」
「なんか、散髪いくとリパッチした、て感じ、せえへん。せえへん、なあ」
「ウチ散髪には行かへんからなあ」
「のびっぱなしか」
「違うわ。美容室行くねんやんか」
「そか。そうやな。で、ワシはリパッチくんで応募したわけや」
「あんたも暇やなあ」
「いやな、散髪に行くやろ、前のヤツが終わるのを待っとるやろ、そしたら応募用紙が置いてあるやろ」
「わかったわかった」
「なんやさっきからおまえワシのこと」

「で、どないなったん」
「え、なにが」
「名前よ。選ばれたん」
「いや、それがやな。賞金送って来えへんから、まあ、外れたと思うんやけど、そういえばどんな名前になったんか、知らん」
「リパッチくんやったりして。でも、選ばれたのはあんたのと違うねん。ほかの人が出したやつやねん」
「そんなアホな。あ、そか。インターネットで調べたらええんやな。ポチッとなと」
「…」
「…」
「…」
「ああ、これやこれ。こいつがリパッチくんや」
「あ、なんか見たことある。で、名前はどこやの」
「いやちょっと待ってくれやい」
「…」
「あった。…『チョキちゃん』やな」
「…」
「……『年齢を問わず誰からも親しみを感じてもらえる』『子供でも言いやすく、覚えやすい』」
「チョキ…」
「『響きが明るくかわいい』…」
「…ちゃん…」
「えーと。ウチではコイツの名前は『リパッチくん』ちうことで、ええかな」
「うん…ええよ」


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