会話文は世界を映す

 今日、バスに乗っていたら後ろに女子高校生(中学生かも?)が五人くらい乗ってきて、にぎやかに話を始めました。

「ねえねえ、スターウォーズのテーマ歌ってよ」
「いや」
「どうしてよ」
「でーでーでー、でんででー、でんででー」
「そっちかい」
「帝国のテーマね」
「でも、ダースベーダーの、あの音。こーこーっていう」
「こーほーですか」
「しかー、すかー、でしょ」
「しゅー、しゅー」
「こー、こー」

 後ろの席でダースベーダーの呼吸音の物まねの、大合唱が始まったので、降りるに降りられなくなりました。

「おかあさん、おかあさん、あのね」
「なあに?」
「あのね、さっき科くんね(弟の名前)、せきしてたでしょ。こんこんって」
「うん、してたね」
「『のろがいたいよー』って、いってたよね」
「うん『のろが』ってね」
「あれはね、ほんとうはかぜじゃないの」
「へえ、なあに?」
「あれは、アイスクリームがたべたいからなの」
「そうなの」
「うん」
「どうしてわかったの」
「あのね」
「うん」
「ひとはそういうものだから」

 これは、ほんとうにあった怖い話です。

 何回聞いても、どちらがどちらなのか思い出せません。「クロコダイルダンディ」という映画がなければもっとわからなかったかも。というのは、クロコダイルと、アリゲーターの区別のことです。辞書を引くと「下あごの前から四番目の歯が露出するほうがクロコダイル、下あごの前から四番目の歯が露出しないほうがアリゲーター」という、冗談みたいな見分け方が載っていました。

「ワニだあ、逃げろう」
「うわあああ」
「追ってくるううう」
「おい、ワニって、どっちなんだ。クロコダイル?アリゲーター?」
「そんなんどっちでもいいだろう。うああ、こっちからも来たああっ」
「これだから日本人は困る。いいか、下あごの前から四番目の歯が露出するほうがクロコダイル。露出しないほうがアリゲーターだ」
「ぎゃあ、噛まれた」
「いたたたた」
「たすけてくれー」

 なにか、微妙に面白くない感じがしてきましたが、せっかくなのでこのまま発表します。

 たとえば、とくに選ばれた兵士を一室に集めて、上官が言うのです。

「これから諸君に見せるものは、このたび我が軍が導入した、最新鋭かつまったく新しいコンセプトに基づいた新兵器である。これがあれば、陸戦は根本から変わる」
 で、ドアが開いて、ぎちょんぎちょんぎちょん、と入って来たのは、兵士が着ると、モーターの力で動きをトレースすることで筋力を何倍もの力に増幅し、また小銃弾を通さない装甲、照準機能、通信、高度な情報処理システムをひとまとめに装備した、科学技術の結晶。ところが、それを見て、
「中世の鎧のようだ」
 という感想を抱く兵士はいないと思うのです。いまどき。あ、パワードスーツだ、とか、なんだ強化装甲服だ、とか、エイリアン2に出てきたアレだ、とかあるいは、ガンダムだ、みたいなことを思うかもしれませんが、要するに「こういう兵器」を扱ったあらゆるフィクションの連想を抜きにしては、もはやリアルではないと。今の若い兵士(あるいは上官もかも)というのは、みんなそういうフィクション以降に成長してきた人々なのだから。
「これより『機動歩兵』という兵科が新設される。諸君はその第一号である」

 あ、ハインラインか、という感想を抱く兵隊は、ちょっとマニア。

「もしウチが」
「うん」
「うちが、西遊記だったら」
「ああ、はい。見たてな、ミタテ」
「長男が猪八戒だよね」
「まずそれか」
「そう思わない?」
「思う」
「だよね」
「じゃ、おれが三蔵法師やな」
「違うちがう。あなたは、沙悟浄」
「それは、関西弁やからかっ」
「そうそう」
「岸部シローかっ」
「そうそう」
「そしたら、三蔵法師は?」
「長女」
「そうやって三蔵法師に女子をあてるんが日本人の悪い癖や」
「そうすると、孫悟空だけど」
「君か?」
「ううん、次男だね」
「ああ、そうかもしれん。なるほど」
「そろっちゃったねえ」
「君は?」
 妻は、にこっと笑って、
「お釈迦様」

 可能であれば、三人の子供をいっぺんにお風呂に入れることにしているのですが、今日、ご飯の後片づけが終わったあと、
「よし、じゃお風呂行くぞ、お風呂ーっ」
 と号令をかけると、次男は、
「はーい」
 長男は、
「やったー」
 長女には、
「またはじまったー」
 と言われました。

 そ、そんな言葉をどこで覚えてくるのだ。

 会社で扱っている部品の名前で、
「ガラス押さえバネ」
 というのがあって、特になんということはない、普通の名前なのに、どうしてこんなに気になるんだろう不思議だわ不思議ね、と思って考えて、気がつきました。これはつまり、
「おしりかじり虫」
 と同じ構造なのです。言葉として。

 ガラス押さえバネーガラス押さえバネー。押さえて押さえて押さえてなんぼ。押さえてなんぼの商売だ。

 ほらほらほら。ぴったり。あと「かつおけずりぶし」もぴったりです。

「いよいよクライマックスシリーズ。やっぱりジャイアンツだよな」
「なに言ってんだ、タイガースが勝つ」
「あのなあ三原。先発がおらんだろう。それならまだドラゴンズのほうが」
「おれはおまえのそういうところが嫌なんだ鈴木。見てろよ最後には勝つ」
「絶対ジャイアンツだって」
「いや、タイガースだ」
「ミナサマ、オチャガハイリマシタ」
「おお、ロビー。おまえはどっちだ。ジャイアンツか、タイガースか。おれか、三原か、どっちなんだ」
「たいがーすデス、スズキサマ」
「ほら見てみろ鈴木。ロビーはおれ側だってさ」
「なんだよロビー。やっぱり三原につくのか」
「ダッテ、ムカシカラヨクイイマス」
「なんだって」
「ろぼっと三原側、デス」

「パンはパンでも食べられないフライパンはなあに?」
「うしはうしでもあたまにかぶるぼうしはなあに?」
 というなぞなぞが今、わが家で大流行中です。
「いかはいかでも緑のしましまがあるすいかはなあに?」
「ボールの中でタコがあっちっち。なんていうたこ焼きだ?」
 というのもあります。子供たちが猛抗議。お父さん間違ってるまちがってるよと猛抗議。


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