論述問題

問:次の文章を読んで、以下の問に答えなさい。

 顔文字やかっこ【1ばく】、などの表現に対しての反応は、自分の表現方法として愛用する人から始まって、好意、容認を経て、軽い不快感から激しい嫌悪に至る広いスペクトルに分かれていると思う。私のまわりを見回してみると、適切に使っている人があまりに少ないからか、見ただけで不快感をあらわにするひとも多いようである。しかし、(A)初めてこれを見たときにどう思ったかと考えると、最初から嫌っていた人は少ないのではないだろうか。あなたも、こういう装飾をはじめて見たときの感想を思い出して欲しい。よほど不幸な出会いをしない限り、たいていは「ちょっとおもしろい」というところではないだろうか。私はどうかというと、パソコン通信にはついに縁がなかったので、インターネットを使いはじめてから後、WWW普及以前のことになるが、誰かのメールで見たのが初めてだったと思う。えらいことを考える人がいるものだと思ったものである。

 それがどうして、このように嫌う人が出てくるまでになるのかというと、やはり、基本的にこれが、人の考えたアイデアを何度も使いまわしているという状態にあたるからではないだろうか。初めて顔文字を考えた人は確かに偉大である。しかし、他人がそれになんら独自のアイデアを付け加えることなく漫然と使い続けているのはどうか。またかよ、そのギャグは前に聞いたよ、というような気分が積もり積もって、嫌悪感になっているのではないか。

 流行語に対して、特にその流行が過ぎ去ってから感じる何ともいえない脱力感というものも、多分これに起因している。よくできた流行語には、かならずそれ自体に、たとえかすかなものであっても、人を笑わせるパワーがある。しかし、それが何十回、何百回と使われ、ついにある種のマスコミや、身の回りの最も鈍い、みずからは何のアイデアも生み出すことのない人々にまで反響しながら浸透してゆくに及んで、われわれは笑いから無反応へ、やがて軽い怒りにまで【2たいど】を変化させてゆくのである。これをお読みのあなたは、今の時期で言うと「だんご三兄弟」あたりにはもはや目にするだけで拒否反応を起こしてしまったりするのではないだろうか。

 パクる、あるいは意図的でない場合は(B)ネタがカブる、というふうに特殊な用語を使うのだが、他人の使ったアイデアを自分のものとして使うことは、かなり恥ずかしいこととされて嫌われている。この理由としては、たいていの場合ジョークというものが一度きりのもので、二度聞いても面白くないということ、それから、アイデアを思いつくというのは貴重な一つの才能であり、それに敬意を払う意味があることが挙げられるだろう。

 流行というものは、多くの人にまねをされなければ生じないものであるが、その反面、多くの人にまねをされているということそのものが、そういった笑いに厳しい目を向けている人々にとってはどうにも許容しがたいものとして映る。とはいうものの、いったん流行がその盛りを過ぎて一定期間を過ぎ、「世間で言い古されたこと」への拒否感というものが消えてしまった後は同じネタがまた【3しんせん】になる、という要素は確かにある。これは、めったに思い出さない記憶が自分に残っていたことへの驚きや、(C)数多くの過去の遺産から的確にそのネタを選び出す能力への賞賛なのだろう。

 そして、そういったことを繰り返すうちに、そのネタは、ある意味で普遍的なものになり、聞き手になんの反応も呼ばなくなる。この状態は、いわば、(D)新しい表現や流行にとっての墓場と言える状態だが、逆に、日本語の、あるいは文化の一部としてそれらの言葉が受け入れられた【4しゅんかん】でもある。現在の日本語や習慣には、はじめ流行として登場し、最終的に一つのありふれた言葉や習慣として受け入れられたものが少なくない。こうして文化が作られてゆくのである。

  SF小説の世界に「タイムマシンもの」というジャンルが存在しているのは、だれかが最初にウェルズの「タイムマシン」の「時間旅行」というアイデアを【5はいしゃく】し、パクって書いたからである。と言われている。他人のアイデアを堂々と使用することがジャンルを形成することを意味し、また、流行語をしつこく使うことが日本語に新しい言葉を付け加えることを意味するなら、顔文字も使い続ければ日本語の一部になってゆくに違いない。

[E]

問1 【1】から【5】を漢字に直しなさい。
【1】(1)曝 (2)悪 (3)爆 (4)剥
【2】(1)熊度 (2)態度 (3)胎動 (4)Tide
【3】(1)新鮮 (2)新選 (3)神仙 (4)芯腺
【4】(1)神官 (2)週刊 (3)出棺 (4)瞬間
【5】(1)拝借 (2)杯酌 (3)伯爵 (4)歯医者苦

問2 下線部Aについて、筆者は、顔文字を初めて見たときにどんな気持ちだったと言っているのか。もっとも近いものを選びなさい。
(1)衝撃的であり、一刻も早くこれを誰かに伝えたいという気持ち。
(2)つまらない、小手先の技術で、この世から消滅すべきだという気持ち。
(3)大きな笑いが込み上げてきて、パソコンの前から転げ落ちそうになるくらいの気持ち。
(4)かすかな面白味を感じて、考え出した人を尊敬する気持ち。

問3 下線部Bの用語「ネタがカブる」について、文中での説明にもっとも近いものを選びなさい。
(1)他人の使ったアイデアを盗用すること。
(2)他人の考えたアイデアを、自分が考えたものであるかのように宣伝すること。
(3)他人と同じアイデアをたまたま同時期に使ってしまい、思ったように笑いが取れないこと。
(4)他人のアイデアをそれと知らずに盗用してしまうこと。

問4 下線部Cについて、つまりどういうことか。説明としてもっとも適当なものを選びなさい。
(1)会話の中で、臨機応変に過去の遺産を活用する能力。
(2)過去の流行語が、古びた感じから新しい感覚に変わる時期を見極める能力。
(3)思わぬときに思わぬ過去の流行語を使って、笑いをとる能力。
(4)過去の遺産に新しいアイデアを付け加えて笑いにする応用能力。

問5 下線部Dで、墓場という言葉をどういう意味で使っているか。近いものを次のうちから選びなさい。
(1)一度入ると二度と帰ってこられない最後の場所。
(2)活動を停止した者が入る憩いの場所。
(3)一年に数度だけ子孫に思い出してもらえる寂しい場所。
(4)夜は運動会が開かれるにぎやかな場所。

問6 この文章をどのようにまとめたら良いか。[E]に入れる、最もふさわしい文章を次から選びなさい。
(1)想像するだに楽しい、なんとも待ち遠しい未来である。
(2)私としては、そうはならないことを祈るのみである。
(3)それはそれとして、そう言えば小腹が減ったので、いまから牛丼を食べに行こうと思う。
(4)さてここでクエスチョンです。

問7 この文章で筆者が最もいいたかったことは何か。次の中から選びなさい。
(1)国語に新しい言葉が付け加わわるのは、流行語をしつこく使い続ける人々のおかげである。
(2)今は腹立たしい流行語や顔文字なども、やがて日本語の一部になるのかもしれない。
(3)ジャンルを形成するためには、他人のアイデアを盗用することを恐れてはならない。
(4)文章を書いたら短くなってしまったので、国語の問題にしてみた。


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