カレンダーガール

 先生、先生。すごいことがわかりましたよ先生。いえ、なにがって、ほら、授業のことです。はい。いえ、とにかく聞いてくださいよ先生。この高校、どうしてだか分からないんですが、どの先生もどの先生もみんな、生徒をあてるときに日付をつかうじゃないですか。
 え、いえ、あれです。授業中、生徒を指名するときに、その日の日付と同じ出席番号の生徒をあてるでしょう最初に。ええ。先生だけじゃなくって、どの先生もそうなんですけど、次はそれに十を足して、一回りしたら一を足して。え、何言っているんだかわからないですか。ええとですね。今日は七日ですね。だから、今日だと、七、一七、二七、三七、八、一八、二八、三八、九…、という出席番号の生徒が順にあたる、ってことです。はい、そうです先生。うちは四〇人クラスですから。

 わかってます。そうですね。出席番号三二以上の生徒は絶対に一番最初にはあたらないですよね。まあ、でも一時間の授業でたった一人二人しかあたらないっていうことはなくて、大抵は一〇人くらいまでは廻るわけですから、まあそれはいいです。問題は、どの出席番号系列だとよりあてられなくってすむか、っていうことです。たとえば、三一日はありますけど、三二日はないので、出席番号一とか二一とかは不利という感じがするじゃないですか。そのへんを調べてみたんです先生。え、なんですか。いえそんな。暇ってわけじゃないです。ちゃんと友達もいますよ。何ですかもう。

 まずは、このメモを見てください。春休みとかの休み中は授業がないので除かないといけません。日曜日は、本当は考えるべきなんですが、まあ長い目で見ると等分に回ってくる可能性があるとして、考えませんでした。ええ。近似ですこの辺は。

 四月。八日が始業式で、九日から授業。二九日がみどりの日で休み。三〇日まで。
 五月。三、四、五日が休み。三一日まで。
 六月。三〇日まで。
 七月。二一日までだが、二一日は終業式で二〇日も海の日なので、一九日までということになる。
 八月。授業はない。
 九月。一日は始業式。一五日、二三日が休み。三〇日まで。
 十月。一〇日が体育の日で休み。三一日まで。
十一月。三日と二三日が休み。三〇日まで。
十二月。二四日までだが、二四日は終業式で、二三日も天皇誕生日なので、二二日までとなる。
 一月。八日が始業式で、九日から授業。一五日が成人の日で、三一日まで。
 二月。建国記念日で一一日が休み。二八日または二九日まで。
 三月。二一日が春分の日で休み。二五日が終業式で、授業は二四日まで。

 もちろん、春分、秋分の日は毎年変わりますし、祝祭日と日曜が重なったら次の日が代休とか、いろいろありますが、とにかくこういうのはまずは無視してやってみました。あ、はい。このメモは九九年のカレンダーを使いました。とにかく、そうすると、日の一桁目の分布はこうなったんです。

四月
五月
六月
七月
八月
九月
十月
十一月
十二月
一月
二月
三月
合計30302828252828282827

 え、はい。平年の場合ですこれは。うるう年は、二月の九日が3回になるので、合計も29になります。さあ、どうですか先生。びっくりするでしょう。五のつく日は、一や二のつく日に比べて5日も少ないんです。

 なんですか、やっぱり気になりますか、日曜日と代休。いやあ、そんなに変わらないと思うんですけど。わかりました。考えてみましょう。とにかく、どの日も休みになる確率は七分の一ですよね。でも、祝日の次の日は、祝日が日曜でも休みになると。だから確率は七分の二になります。本当は、ええ、日付同士である曜日になりやすいとかそういうこともあるんでしょうけど、とにかく今はそう考えましょう。

 ええと、祝祭日の影響で休みになる可能性のある日は、四月三〇日、五月六日、七月一九日(二〇日が日曜で、二一日が休みになると、終業式がこの日になるため)、それから、九月一六日と二四日、十月十一日、十一月四日と二四日、十二月二二日(七月一九日と同じ)、三学期は一月一六日、二月一二日、三月二二日ですね。この日からそれぞれ二/七、他の日から一/七を引きます。ついでにうるう年も考えることにして、二月二九日に一/四を足しましょう。となると、えと、

授業のある日の数(日)25.625.324.023.621.423.624.024.024.123.0

 こうですね。あ、もちろん二月二九日の分は、日曜を差し引く前に足しましたよ。ええ、ぬかりはありません。どうですか、なんだか四、五、六のあたり、少ないですよね。ここで、そうですね、平均して授業あたり、3つの系列が指名されるとしていいですか先生。たとえば一四から始まったら、一四、二四、三四、四、一五、二五、三五、五、一六、二六、三六と、六までいくわけです。そうすると、たとえば出席番号一〇番だと、八日とか一九日も危険日ってことになるんですけど。え、なんですか、危険日がどうかしましたか。え、もう、変な先生だなあ。続けますよ。そうすると、三つ前まで足せばいいわけです。それを合計で割ったのが、危険率っていうことになります。表にすると、

危険率(%)30.531.031.430.528.928.728.930.030.229.8

 どうですか。一番授業中に指名されやすいのは出席番号が三系列の人で、あてられにくいのは六がつく番号の人っていうわけです。はい。検算もしました。ちゃんとこの平均は三〇パーセントになります。ええ、三の人と六の人、三パーセント近くも違うんですよ。

 三パーセントじゃたいしたことないって、そうおっしゃるんですか。違いますよ先生。平均三〇パーセントなんですから、一割も多い少ないがあるってことです。一〇〇万円と一一〇万円ですよ。毎日切符を買うのと回数券を買うのとの違いです。スーパーで肉を昼間に買うのと閉店まぎわに買うのとの違いです。すごい違いじゃないですか。全然違いますよ。

 え、いや、なんですかもう、ただちょっと気になったから調べてみただけです。他意はないんですったら。いやそんな、授業中あてられるのがそんなに嫌かだなんて、決してそのような。違います。私の出席番号が二三番だからじゃないです。ただその、もうちょっと考えて指名して欲しいな、なんて。いえ、先生の授業に文句をつけようとかそんな。あ。あ、もうこんな時間、そういえばぶ、そう、部活の時間でした。すいません。これで失礼します。お、お邪魔してすいませんでした。さよならっ。


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