死が二人を分かつまで

「なあ、もしもやで、もしも」
「あん、なんや」
「もしも、あんたが死んだら」
「は」
「死んだら」
「にへんも言わんでよろし。なんや辛気臭い話やなあ」
「ええやん、こういうことは、大事なことやんか」
「うん、まあ、そやな。で、死んだら、なんや」
「何と一緒に焼いて欲しい」
「知らん知らん。なんや焼くて。つまり、火葬するいうことかいな」
「うん、そう」
「何を言いだすか思たら。さあ、そうやなあ。好きなもんと一緒に焼いてくれ、ていう人がよくおるなあ。人形とか、おもちゃとか」
「それは子供やん」
「未完成の作品と一緒とか、好きなCDとか、手紙とか、日記とかかなあ」
「手紙って。ラブレターみたいな」
「うん。そういや、むかしお前に出したラブレター、あれ、どないした」
「どないて、さあ、どこ行ったんやろ」
「なんやそれ。まあ、ええけどなあ。頼むから、よその人に見られるようなとこに、置きっぱなしにせんとってくれよ」
「どないしたんやろほんまに。どっかにあるとは思うんやけど」
「ええかげんなやっちゃなあ。それで、お前はどないやねん。何と一緒に焼いて欲しいんや」
「わたし、あのポスターと一緒に焼いて欲しいなあ」
「ポスターって、キムタクかいな。せのないやっちゃなあ。せめて、あんたの写真と一緒に焼いてくれ、て、なんで言えん」
「そうして欲しいのん」
「いや、そない言うたらあんまり縁起のええこっちゃないな。しかし、キムタクなあ」
「キムタク、ええやん」
「ええんやけどなあ。じゃあ、わしやったら広末のポスターか。それはどうもなあ」
「広末て、あんた、あんなんがええの」
「いや、特にそういうわけやないんやけど。例やがな、例」
「だれでもええねやったら、もうちょっとええ子を例に出しいよ。藤原紀香とか」
「あんなもん、あかんあかん。それこそ、どこがええねん」
「ほな、なにと一緒に焼こ」
「うーん、せやなあ。好きなもんいうたら、焼き肉かなあ」
「好きなもんて、そっち方面なんや」
「五百グラムくらいのぶっといステーキ肉と一緒に焼いてもらおかな。ウェルダンで」
「あほか。そんなん、ウェルダンにきまっとるやん。怖いわ火葬でレアなんか」
「まあ、ホンマはウェルダンどころやないんやろけどな。なんせ骨なってまうねんから」
「せやったら、ほら、パイ生地と一緒に焼いて、でき上がったら骨の上にパイが」
「あほはお前や。炭になるわい」
「わからへんやん。ホイルに包んどいたりしたら」
「そうなんか」
「うそや」
「そしたら。バニラエッセンスとか、焼けてもええにおいのするもんと一緒に焼いてもらうのはどうやろ」
「においだけなん」
「ほら、火葬て、焼いたあと、みんなで骨拾うやろ。長いのんと、短い箸一本づつ使こて」
「うん」
「そのとき、ごっつええにおいがすんねん。思わず、遺族の口のなかにつばがわくんや」
「あは。おもわずパクっと食べてもたりして」
「カレーのルーとかはどうやろ。あれはええにおいがするぞお。二百種類以上のスパイスと一緒に焼いてもろて」
「火葬場のまわりの人が、うちも今晩はカレーにしよ、て」
「チョコレート消しゴムの匂いの素なんかもええな。お棺をあけたら、チョコレートのええにおいが」
「あはは。あれ、ええ匂いするもんなあ。ほら、なんかチョコレートの形しとるやつなかった。消しゴムで」
「あったあった。アーモンドチョコレートのかけらの形やねん。むっちゃええ匂いで」
「あれて、だれかお年寄りが食べて亡くなったいうて、製造中止なったらしいよ」
「ええ、ほんまかいな。んー。まあ、あれはそら、食べるかなあ。でも、死ぬかなあ」
「喉につまったんやて、思うんやけど」
「そんなら、あれかな」
「なに」
「そのお爺さん焼いたとき、やっぱりチョコレートの匂いがしたんかな」


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