百詩篇集

 日系植民惑星「あさひ」、新都文化大学オープンカレッジ特別講演「カードゲームの風景」
 講師:新都大学人文学部史学研究科教授・新都文化大学講師、真崎・F・豊国
 日時:朝日二六一年春一三日第十刻

 ごほん。え、真崎でございます。マイク入ってますか、入ってますか。あ、そうですか。真崎でございます。
 え、今回は「カードゲームの風景」というお題で、一般向けの話をせよと、そういうわけでお話をさせていただいております。ええ、先年、あ、もう二年前になりますが、マスコミ等で大きく取り上げられました、第二三食料庫からは、現在もなお、さまざまな発見がされておりまして、例の大戦争「大文化棄却戦争」(詳しくはアーカイブ等をご覧になっていただきたいところでありますが)以前に我々がこの惑星上で持っておりました文化、ないし、さらに以前、母なる地球からの遺産についても、非常に多くの研究が実を結んでおりまして、私どもとしましてもたいへん鼻が高いところなのでありますが、ええ、今回は、その中から発見されました「カードゲーム」についてのお話をすることに、いたします。

 え、今回は一般向けの講演である、ということですから、忘れずに「カードゲーム」そのものについて皆様にお話ししなければなりません。カードゲームと総称されます遊技は、みなさまこちらはよくご存知の「トランプ」等の遊びの延長上にあるものです。この一組のカードを使ってさまざまな遊びができることはみなさまにおかれましてもご承知のことと思われますが、実は、古代世界にはこれに類似したカードゲームが非常に多数ありました。トランプを用いて数十種類の「遊び方」があるのとはまた別に、別の絵柄を描きましたカードを用いて遊ぶゲームが、多数存在していたのです。

 スライドをご覧下さい。これが、当時庶民の間で遊ばれていた、と考えられるカードゲームの一種であります。これは、ご存知の方はご存知であろうと思われる「剣と魔法」の世界をイメージしたカードですね。絵には「竜」と呼ばれる、母なる地球に、有史以前に生息していた生き物の図柄が書かれておりまして、このカードが持つ意味がさまざまな数字と記号で書かれております。次のスライド。はい、これは「鎧をまとった戦士」というカードです。次のスライド。こちらはデフォルメされた少女の絵が描かれておりますね。明るい色のミニスカートで、ステッキを持っております。

 近年、第二三食料庫だけでなく、世界各地から、このように数十枚のカードが発見されておりますが、残念ながらこの種類に属するカードが全て発見されているとはいいがたい状態でありまして、遊び方ははっきりわかっておりません。説明書がカードと共に発見されることはほとんど期待できるところではありませんから、遊び方を復元するのは非常に難しいのですけれども、幸いにして、カードそのものにある程度詳細な説明が書かれている場合がございまして、現在ゲームの遊技方法等につきまして研究が進められております。おそらく、カード同士を組みあわせて意味を持たせ、プレイヤー同士で強弱を比較するという、トランプの「ポーカー」と似たゲームだったのではないかと想像されますけれども。

 スライドお願いします。次。はい。今回のテーマは、こちらのカードであります。第二三食料庫から発見された大きな成果の一つであります、百枚以上からなります一組のカードということになります。いうまでもなく、これはこの種のカードにおいて非常に珍しいことでありまして、これがおそらく一そろいであると想像されます。次のスライド、はい、このように、明らかに一つのグループに属する、多数のカードが発見されました。これから、この意味、遊び方を見てまいりましょう。

 こちらをご覧下さい。「人物カード」と研究者の間で呼ばれておりますカードの一枚であります。母なる地球の、古代における代表的な衣装を身にまとった男女と、その説明文が描かれております。この説明文が非常に読みづらいフォントで印刷されておりまして、解読には苦労するところなのでありますが、内容もまた難解であります。一枚見ることにいたしましょう。はい、つぎのスライド。

 奥山に紅葉踏み分け鳴く鹿の声聞く時ぞ秋は悲しき

 立派な衣装を着ました、男性の絵とともに提示されております。この文章が、秋の悲しさ、寂しさを一文にまとめている、一種の芸術であることがわかります。「紅葉」は秋に赤くなった葉のことでありまして、鹿は古代の母なる地球に住んでおりました動物の一種であります。別のカードゲームに赤い葉とともに絵として登場している動物がありまして、これが「鹿」ではないかと想像されております。こちらのスライドです。はい。では次のスライド。

 花の色は移りにけりないたづらにわが身世にふるながめせしまに

 うつくしい、と言うべきでありましょう。女性と思われる姿と共にこう書かれております。意味は古代文の専門家にとっても取りにくいものであるそうですが、意味を現在の言葉に直しまして説明をいたしますと、ええ「花が移動したなあ。いたずらであろうか。私の身が世界に落下してゆく風景は『せしま』であることだろうなあ」ということになりましょうか。「せしま」が何であるかはよくわかっておりません。「手狭」に似た言葉であるとも言われております。はい、次。

 ちはやぶる神代も聞かず竜田川からくれなゐに水くくるとは

 「ちは」がちょっと分かっておりませんが、とにかくそれを破ったほど昔の神の時代にも聞いたことはない、と書いております。竜田川という川の水が紅、非常に鮮烈な赤に、くくる、というのがまた分かりませんが、おそらく染まった、と言っているのでしょう。流血を意味していると思われます。大きな戦争であろうと思われますが、この絵からはよくわかりません。ある種の「闘争を暗示するカード」ではないかとも言われております。

 これやこの行くも帰るも別れては知るも知らぬもあふ坂の関

 こちらは帽子を被った男性、でありますね。意味は「いろんなことが世の中にあっていろんな人がいるけれども、とにかくあれだ『あふ坂の関』をよろしく」ということであります。コマーシャルソングであろうかと思われます。次をお願いします。

 風をいたみ岩打つ波のおのれのみくだけてものを思ふころかな

 丸顔の男性でありますね。意味を取りますというと「風が吹いても痛いという重病である。その痛みは、まさに波に砕かれる岩のようだ。私の体もばらばらになってしまいそうだと思う、そういう年ごろであるなあ」ということになりましょうか。絵では彼は若いように描かれておりますが、古代における栄養状態は良いものではありませんでした。痛風で苦しむこともあったことでしょう。

 え、何でしょうか。はい。わかりました。ええ、皆様とともに、もっと見て参りたいのでありますが、時間が迫っているようであります。では、はい、次、つぎ。つぎのスライド。はい。

 陸奥のしのぶもぢずりたれゆゑに乱れそめにしわれならなくに

 非常に難解でありますね。「陸奥」というのは母なる地球上の地名であります。全くの想像でありますが、そこにある「しのぶもぢずりたれ」によって「そめにし」が乱れたのでしょうか。「そめにし」は何か衣服の一種ではないかと思われますが、よく分かりません。しかし、最後の節は意味がわかっております。私なら泣くのになあ、という慨嘆を表しております。

 え、それでは、このようなカードを用いて、昔の庶民がどのような遊びをしていたのか、ということなのですが、ええ、申し訳ございません、ここで時間がきたようであります。「文章カード」というもう一種類のカードが存在しているのですが、その説明は、ああ、申し訳ありません。ほとんど時間ありませんが、何かご質問ありましたら、どうぞ。ございませんか。どちらさまも、ございませんか。そうですか。それでは、これでおしまいです。次回のオープンカレッジをお楽しみに、またお越しいただけますよう。

 や、私のほうからも、えへん、お知らせがございました。これはコマーシャルであります。え、大学の方でこのカードゲームを複写いたしまして、売店のほうで販売をしております。ご訪問のみなさまにおかれましてはぜひこれを購入して、お土産としていただけましたら、幸いでございます。わたくしが書かせていただきました、解説本もついております。以上でございます。それでは、皆さま、ご機嫌よう。


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