視聴者のみなさまへ

 このサイト「大西科学」のトップページに置いてある来訪者カウンターが、ありがたや、今や一〇万を越えようとしている。ウェブサイトにおけるこの「アクセスカウンター」という装置がいつ一般化したものかは定かではないが、今やアクセスカウンターがないサイトを探すほうが難しいくらいである。今あなたがご覧になっているこのページからリンクを介して繋がっている、広がっているこの世界には、数を数えるのが好きな小動物が辻々にいて、あなたの足跡を数えているのだ。そう考えてみると、いかにここが奇妙な世界かということがわかる。思い出して欲しいのだが、あなたは、初めて「アクセスカウンター」というものを見たときに、どういう感想を持っただろうか。「そんな情報に何の意味があるのか」あるいは「来訪者にその数を知らしめて何になるのか」といった、批判的な意見を持った人がかなり多かったのではないだろうか。

 インターネットではなくて、テレビの番組がいかに多くの人に見られているか、あるいは、いかに少数のひとにしか見られていないかの指標として「視聴率」という尺度がよく使われる。本当のところ、自分が好きなその番組がどれだけ人気があるかなどということは見ている方にすれば実はどうでもいいことであって、テレビ局の都合以外に存在する必然性はない。だからもともと視聴者がわに知らされるべき情報ではないし、それどころか、むしろ漏らすことが下品である類の情報であるはずなのだが、現に「視聴率」などという専門用語が一般に知れ渡って使われるようになってしまっているだけではなく、今や視聴率そのものを扱った番組さえある始末である。しかし、そういえば、と思うのである。自分だってアクセスカウンターなどを設置して、見ている人には意味のない情報を、しかも見ている人の貴重な通信時間を無駄に使ってまで流しているではないか。

 そう、やっぱり、どれだけの人に読まれているかというのは、正直に言うと、作っている方としてはものすごく気になるものなのである。アクセスカウンターのちょっとした多寡に一喜一憂してしかもそのことを自分のページで公表したり、他人の掲示板やメールなどで宣伝活動を行ったりしてカウンターを伸ばすべく狂奔する、というのは、見ていてかなり下品な行動であることは確かだが、自分もページにカウンターを置いたりしている身としては、その気持ちはわからないではない。そう思うと、テレビで視聴率について云々する現象も、やはり素直な人間なら誰でもそうなってしまう、無理もないことかと思ったりもする。

 さて、アクセスカウンターもそうであるように、視聴率もまた、現実のテレビ視聴状況を正確に反映しているわけではない、ということは容易に予想できるところである。日常生活ではあまりにも軽視されがちなのだが、なにかを測定するということには、常に「誤差」というものがつきまとう。真の値からどれだけ外れているかという目安を与える数字である。

 視聴率は、いったい、どの程度信用できるものなのだろうか。テレビ局が視聴率を神の啓示のように扱っているということが滑稽なことなのか、あるいはむしろ無理もないことなのかという判断は、この情報がどれだけ正確なのか、誤差がどのくらいになるのかを考えたうえで、下さなければならないだろう。

 ある番組がどの程度見られているかについて、最も正確な数字を得ようと思ったら、すべてのテレビがどのチャンネルを回しているかを調査すればよい。実際に「国勢調査」などではできるだけそれに近いことをやろうという努力がされている。とはいうものの、そんなことをすれば莫大な調査費用がかかってしまうから、現実的には、日本中にたぶん一億台近くあると思われるテレビから、少数のテレビを選びだしてその調査結果をもとに全体を推定する、という方法が使われているはずである。

 こうして、もとの集団からサンプルを得ることによって求められた数字には二通りの誤差が存在する。この辺りの用語がやけにややこしいのだが、統計誤差と系統誤差という。統計誤差は、調査対象が限られた数なので、選ばれた個々の例の都合で大きく調査結果が変わってしまうということから生じる誤差である。これを減らすには、単純にたくさん調査すればよい。一方系統誤差は、選んだ対象が偏っているので、ちっとも日本全体を代表していないということから生じる誤差である。こっちを減らそうと思ったら、なるべく日本のあらゆる層からサンプルを取るように努めるしかないが、言うまでもなく、これを公平にやるのはかなり難しい。数学的に見積もるのが難しい誤差だと言える。

 測定誤差はこれら二つを合わせたものになるわけだが、これがどのくらいかという疑問に正確に答えるには、日本のすべての家庭を調査して、それと発表されている数字を比較するしかない。ただまあ(この文章はそもそも遊びであるので)正確ではなくて、どれくらいか見積もれればいい、ということであれば、いくつかの調査会社を独立に使って、それぞれの会社が出してくる数字の差を見れば、少なくとも誤差がこれだけはある、という下限はわかるはずである。すべての調査会社で同じような数字が出てきたら、これは数字が非常に正確であって真の値をよく反映している、ということかもしれないし、またはすべての調査会社で同じミスをしていてたまたま同じような数字が出てしまうのかもしれない。しかし、調査会社間で数字が食い違っている場合は、それぞれの数字はそれくらいいいかげんなものである、ということだけははっきりするのである。

 ともかく手元にある数字でやってみよう。最近のテレビ雑誌などで発表されている視聴率は、関東と関西の2通りの数字を出すようになっている。思うのだが、関西にしかない番組、関東にしかない番組はしかたがないし、二次的に、裏番組の差からある番組の視聴率が変化するという現象は確かに起こるだろうと思うものの、どちらの地方でも同じようなプログラムになっている時間帯では、同じ数字がでなければならないのではないだろうか。関東と関西で、現実問題としてそれほど好みが片寄っているとは思えないからである。

 ここに、今年一月一〇日から一週間の、テレビ番組の視聴率の調査結果がある。

順位関西関東
一位あすか/26.4%ビューティフルライフ/31.8%
二位金曜ロードショー/24.2%あすか/24.3%
三位ビューティフルライフ/23.5%おしゃれカンケイ/24.2%
四位探偵!ナイトスクープ/23.2%SMAPプロモゲリラ/23.5%
五位さんまのスーパーからくりTV/22.4%伊東家の食卓/23.3%

 「探偵!ナイトスクープ」あたりには、関西で非常に人気があって関東ではそうでもない、というような傾向が確かにあるだろうと思うのだが、たとえば、関東で一位の「ビューティフルライフ」は関西では三位、その差は8.3ポイントもある。三人に一人が見ている、というのと四人に一人が見ている、というのはちょっと無視できないほど大きな差である。もちろん、この番組は関東で好まれていて関西ではそうでもない、ということはあるのかもしれないが(私は見ていないので、内容はわからない)。もしかしたら、これくらいの差は系統誤差として、あたりまえに存在するのではないだろうか。少なくとも、ふたつの「あすか」の差、1.9ポイント以上に正しい数字に肉薄しているとはとても言えないように思う。

 とまあ、何がいいたいかというと、アクセスカウンターも、この視聴率のように誤差が本来あるものなのに、その誤差がどれくらいだか見当もつかないのだから、あまり一喜一憂するものでもありませんよ、ということなのである。ああ、でも嬉しいのだ。顔がにやけるのをどうすることもできないのだ。みなさま、本当に、ありがとうございました。


※ここに書いたデータは、東京ニュース通信社発行の「TVガイド」関東版二千年第六号(1.29〜2.4)から引用させていただいきました。そう、私この雑誌、このためだけに買ったのです。
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